ジャックオーランタン




「ようこそ!アフジスカへ」
 まだ、いちどしかきたことのないアフジスカ。
 それなのに、なんだかとってもなつかしい。
 それはきっと、みんなが希奈子を家族のようにでむかえてくれたから。
 希奈子はモモ姫に案内されてはじめてアフジスカへきた場所にいた。
 希奈子の前にはモモ姫とフォールドがちょこんと二本足で立っている。
 そのうしろには、大きな地球儀が相変わらずぷっかりとうかんでいた。
 ただ、そこにはライラックのすがただけがなかった。
 アフジスカからじぶんの世界へと帰る電車にのったとき、
 ライラックのことを《石あたま》と言ったから、
 ライラックが怒ってしまったのかと、希奈子は心配になった。
「ライラックは?」
 モモ姫とフォールドが顔を見合わせる。
「希奈ちゃん。ライラックのこと、お気にめして?」
 モモ姫がそのどんぐりのような目で、ちろりと希奈子を見る。
 モモ姫にからかわれていると思った希奈子は
 顔を真っ赤にそめあげると、いきおいよく首を左右にふった。
「ライラックなら、煙草をきらしたとかいって買いに行ってますよ。
 もうすぐ、もどってくると思うけど・・。」
 希奈子がまだ顔を赤くしているので、
 フォールドはその目をすっと、ほそめた。
「タバコを買いに・・?もう、ライラックったら!
 タバコは体に悪いって言ったのに!」
 モモ姫とフォールドがまた顔を見合わせると、大きな声で笑った。
「どうして二人とも笑ってるの?」
「だって、希奈ちゃんの言いかた、
 まるで、おかあさんみたいなんですもの!」
 思わず希奈子は口に手をあてた。
「よっぽどライラックがすきなのね!」
 モモ姫に《ライラックがすき》と言われた希奈子は
 口に手をおしあてたまま、今度は耳まで真っ赤にした。
「ちょっとやけますね。」
 フォールドまでもが希奈子をからかう。
 顔を赤ピーマンのようにした希奈子は必死にさけんだ。
「ちがうもん!すきなんかじゃないもん!あんなイヂワル・・・」
 そう言った瞬間、希奈子の首がくんっと、うしろにひっぱられた。
「意地が悪くてわるかったな。」
 ライラックが希奈子のまうしろから、じろりと見下ろしている。
 希奈子はひっぱられた頭をそのまま上にむけ、
 口をぽかんと開けながら、真っ黒なひとみを大きく見開いて
 ライラックを見上げた。
 なにも言えない希奈子にライラックはイヂワルく、にやっと笑うと、
 希奈子のおでこに買ってきたばかりの煙草の箱をぽんっと、おいた。
「おとすなよ?」
「なに?なにをのせたの?」
 希奈子にはおでこにおかれたものが見えない。
 ずっと上をむいている首はつりそうだった。
「ライラック。そういうことを女の子にするもんじゃないよ。」
 フォールドが希奈子のおでこにのせられた箱をとってくれた。
「ライラックもまんざらじゃなさそうね?」
 つかつかとフォールドとライラックのあいだにわってはいったモモ姫が
 ライラックのヒゲをぴんっと、はじいた。
「いて!
 ・・・モモ姫、猫のヒゲは敏感なんだから、
 もっと大事にあつかってくれ。」
「希奈ちゃんは大切なお友だちなんだから、
 もっと大事にあつかってちょうだい。」
 その言葉に、さすがのライラックも肩をすくめて苦笑いすると
「お姫さまの意のままに。」
 と言って、会釈した。
「さ!ハルさんがお待ちかねよ!そろそろ行きましょう!」
 モモ姫が希奈子のうでをつかんでスキップするように歩きだした。
 そのあとにフォールドとライラックがつづく。


 アフジスカの夜。
 空には月が、道の両わきには
 木につるされたジャック・オー・ランタンが闇をてらしだしている。
 ジャック・オー・ランタンとは、カボチャをくりぬいてつくったランタン
 (ランプ)のことで、元はジャックズランタン、
 つまり、ジャックのランタンとよばれていた。
「ねぇねぇ。どうして、ジャックのランタンなの?」
 希奈子の質問にフォールドがこたえた。
「いろいろな説があるんですけど・・・そうですねぇ。
 有名なのが・・むかしむかし、ジャックという名前の男がいました。
 その男はひどくぐーたらでね。
 くる日もくる日も、お酒ばっかり飲んでいたそうです。」
 希奈子の右どなりをゆっくりと歩きながら、
 フォールドがはなしをつづける。
 二人の前を歩いているモモ姫とライラックも会話をやめて、
 フォールドのはなしに聞きいっている。
「希奈子さん。
 ハロウィンの夜はね、あの世とこの世をつなぐ扉が開かれるんです。
 だから、悪魔に連れていかれないように、
 みんな、悪魔のかっこうをして街を歩くんですよ。」
「そうだったの!日本のお盆のようなものなのね。」
「そうですね。
 ジャックはハロウィンの夜もよっぱらいながら、道を歩いていました。」
「そこで悪魔とばったり!」
 モモ姫がうしろをふりかえって前足をかざすと、
 悪魔のマネをしながら言った。
「ジャックはどうなったの?」
 おそるおそる希奈子が聞いた。
「ジャックはぐーたらだったけど、とても頭がよかったんです。」
「ま、ずるがしこかったのさ!」
「ライラックみたいに?」
 希奈子はそう言うとちろりと赤い舌をちいさく出した。
 希奈子の言葉に今度はライラックがふりかえると、
 希奈子の鼻先にひとさし指をぴんっと、立てて言った。
「オレはずるがしこいんじゃなくて、ほんとうにかしこいのさ。」
「じぶんで言わないでよ。」
 モモ姫がお得意の前足キックをライラックにお見まいすると、
 ライラックはふさふさのしっぽをいちど、ぶるりとふるわせた。
「まぁまぁ、ライラックもモモ姫もそのへんにして!
 つづきをはなしますよ。」
 フォールドが二人をなだめると、
 モモ姫とライラックはくるりとむきをかえて、また歩きだした。
「ジャックは持ち前のかしこさで、
 まんまと悪魔を退散させることができた。
 ところが・・翌年のハロウィンの夜にまた、
 その悪魔に会ってしまったんです。
 しかし、そこは悪知恵のジャック。
 彼は悪魔をうまく言いくるめると木の上にのぼらせました。
 そして、その木に十字架をほったのです。
 十字架をほられては悪魔は身動きできません。
 ジャックはそこで悪魔とある約束をしました。
 《木からおろしてやるかわりに、オレの魂を絶対にとるな》。
 そうして、悪魔はしぶしぶあの世へもどっていきました。」
「ジャックって、ほんとうに悪知恵がはたらくのね!」
「あはは!そうですねぇ。
 そうして、ジャックは二度も悪魔を退散させることができたんです。」
「でも・・・それと、ランタンと、どういう関係があるの?」
「そうあせらないで。はなしはまだつづきますから・・。
 それから、何十年と月日がながれ、
 ジャックは寿命をむかえ死んでしまいました。
 そして、天国へとのぼったけれど生前のおこないが悪かったから、
 地獄へとおとされてしまったんです。」
「当然ね!」
 モモ姫が言うと、ライラックも
「当然だな。」
 と、声をあわせた。
「地獄におちたジャックはそこであの悪魔と、
 ふたたび会ってしまいました。
 悪魔は言いました。
“わたしはおまえの魂をうばわないと約束した。
 故(ゆえ)に、おまえをここにおいておくわけにはいかない。”
 ジャックは天国からも地獄からも追い出されてしまったのです。
 彼はしかたなくきた道をもどることにしました。
 しかし、その道はひどく暗かったので、悪魔が彼に火種をくれました。
 ジャックはその火種をカボチャにいれ、ランタンをつくりました。
 真っ暗な道をカボチャの火がさみしくてらしだします。
 こうして、天国にも地獄にいけないジャックは
 暗く冷たい道を永遠にさまようことになりました。」
「それで、ジャックズランタンね!」
「そういうわけですねぇ。
 今でも、ジャックはあの世とこの世のさかいを
 永遠にさまよっているらしいですね。」
「でも、約束をきちんと守ったり、火種をくれたり、
 悪魔さんって良いヒトね。」
「あはは。
 悪魔っていうくらいだから、ほんらいは悪いヒトなんでしょうけどね。」
 希奈子が、ふと、道の左右にぶらさがっている
 ジャック・オー・ランタンに目をむけた。
 風がふくとジャック・オー・ランタンがゆらりとおどる。
 それはまるで真夜中のカボチャのダンスパーティー。
 光るカボチャの目が希奈子を見るたびに、
 
希奈子のせすじが冷たくなった。









   


アフジスカ〜猫と少女の秋空物語〜