学校は楽しい?
朝。いつもの朝。
カーテンのすきまからやわらかな木洩れ日が、さらさらとさしこんでいる。
希奈子はベッドの中でいちどねがえりをうった。
すると、希奈子のちょうど目のあたりに陽があたり、
まぶしくなって目を覚ました。
「ん〜・・」
まだねむいといったように目をこする。
「なんじ・・?」
時計の針は七時をさしていた。もう起きなくてはいけない時間だ。
希奈子はしかたなく、もそもそとベッドからはいでると
パジャマをぬいで洋服に着がえた。
きちんと時間割の用意も終わっているランドセルを持つと、
下の部屋へとおりていった。
キッチンのドアをあけると、
もう、おとうさんもおかあさんも起きていて朝ごはんを食べはじめている。
「おはよう。」
「おはよう。希奈子。」
おとうさんとおかあさんに朝のあいさつをすると、
希奈子は冷蔵庫からアップルジュースをとりだしてじぶんのイスにすわった。
こぽこぽと、アップルジュースをコップにつぐ。
金色のその色は、
アフジスカでライラックの背中にのって見たお月さまのようで、
希奈子はなんだかうれしくなった。
アップルジュースのはいったコップをななめにしたり、
太陽の光にすかせてみたりしていると、おとうさんに
「たべもので遊ぶのはやめなさい。」
と、怒られてしまった。
「ごめんなさい。」
希奈子がちいさな声であやまった。
「あら。
そういうあなたこそ、ご飯を食べながら新聞を読むのはやめてちょうだい。
おぎょうぎが悪いんじゃないかしら?」
「おかあさんの言う通りだね。ボクが悪かったよ。」
おとうさんは新聞をたたんでテーブルにおくと、希奈子に
「怒られちゃったな。」
と、言って笑った。
「朝ごはんはパンでいい?」
おかあさんが丸パンを見せた。
「うん。でも、焼いてね。」
「はいはい。バターとストロベリージャムはテーブルに出ているからね。」
こんがりキツネ色に焼かれた丸パンに、
バターとストロベリージャムをたっぷりつけて、
スクランブルエッグといっしょに食べるのが希奈子のお気にいり。
八時すぎ。
おとうさんとおかあさんは会社に、希奈子は学校へ、
それぞれ出かけていった。
いつもの通り道。
登校中の子供たちのなかに希奈子はあのおじさんとパグのすがたを探した。
ハス池で会った、やせたおじさんとそのおじさんが散歩している犬だ。
―こんな朝からお散歩してないかあ。
やっぱり、あのパグちゃんがモモ姫なのかなあ。
希奈子はアフジスカであったことを思い出しては、ちいさく笑った。
そのたびに、だれかに見られていないかどきどきしながら、
また、ちいさく笑った。
希奈子の家から小学校までは歩いて十五分くらいかかる。
「おはよう。」
「おはよう。」
朝の昇降口は朝のおはようでいっぱいだ。
希奈子も友だちに元気にあいさつをした。
「なんか希奈ちゃん、今日は楽しそうね。いいことでもあったの?」
希奈子の友達の露子(つゆこ)がふしぎそうな顔で言った。
「そんなことないよ。」
そう言う希奈子の顔はとっても笑顔だ。
露子はますますふしぎそうな顔をした。
希奈子のクラスは南側の校舎の二階にあった。
夏になると南風が窓からはいってきてとっても気持ちがいい。
とはいえ、気持ちよくていねむりなんてしたら大変だ。
希奈子のクラスの担任は女の先生で、やさしいけど怒るととてもこわいのだ。
―今日もたいくつな一日のはじまりね。
じぶんの席についた希奈子は黒板をみながら、ふうっとため息をついた。
―だめだめ!ライラックが言ってたじゃない!
たいくつだって思ったら、たいくつになっちゃうって!
首を左右にぶるぶるふると、
希奈子は一時間目の授業の教科書とノートを机の上にだした。
―そうよ!すべてはわたししだい!
希奈子は学校の窓から外をながめた。
真っ青な空に雲がゆうゆうと流れていく。
一時間目、二時間目となにごともなくおだやかに時間はすぎていった。
三時間目はコンクールに出すための絵を描くことになっている。
チャイムがなると先生が教室にはいってきた。
「さあ、みなさん!テーマはじぶんのすきなものです。
すきなものならなんでもいいのよ。
じぶんの思ったように、形式にとらわれないで自由に描きましょうね。」
希奈子はさっそく色えんぴつをとりだすと描きはじめた。
それを見ていたとなりの男子もさっそくちょっかいをだしはじめる。
「なんだよ。それ・・。空なのに気持ち悪い色!」
だとか、
「犬や猫のくせに二本足で立ってるなんて変なの!」
などなど。
希奈子がなにかを描けば、なにかしらもんくを言ってくる。
でも、希奈子はちっとも気にしなかった。じぶんのすきなものを自由に描く。
だから、希奈子はアフジスカの絵を描いた。
ライラックやモモ姫、フォールド。ハルさんやユリエさんも描いた。
空にはたくさんの色をぬった。
そして、最後に白い一本の線を描いた。ひこうき雲だ。
希奈子は絵のできあがりにとても満足した。
大すきな、大すきなアフジスカの絵。
絵を先生に出したとき
「すてきな絵ね。特に空がいいわね。」
と言ってくれたことが、希奈子はとってもうれしかった。
学校が終わって、希奈子はいつもの道を通って家に帰った。
だけど、そのときもパグを散歩しているおじさんには会わなかった。
―もう会えないのかな・・。
ううん。きっと、今日はたまたまお散歩にこなかっただけよ!
希奈子はランドセルをきゅっとにぎりしめるとハス池を見た。
ハス池の底にある水にまわりの紅葉している木がうつって、
水が赤や黄色にそまっている。
―ハス池も紅葉の季節ね!
希奈子はちいさく笑うと走って家に帰った。
夕方。テレビの音と夕飯のにおいが流れてくる。
おかあさんが台所に立って夕飯の用意をしているとなりで、
希奈子が今日いちにちのほうこくをしている。
「先生にもほめられたのよ!」
希奈子は得意気に絵のはなしをした。
「はやく希奈子の描いた絵を見たいわ。楽しみね。」
おかあさんがやさしく笑った。
「ただいまー。」
玄関のドアが開く音とおとうさんの声が聞こえた。
「おかえりなさい!」
希奈子は玄関に走っていって、おとうさんをでむかえた。
「ん?やけにごきげんだな。うちのおじょうさんは。
学校でなにかいいことでもあったのかな?」
「ちょっとね!」
「そうかそうか。それじゃあ、あとではなしを聞くのが楽しみだな。」
おとうさんが背広をぬいでハンガーにかけると、
希奈子の頭をぽんぽんっと、なでた。
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